「観光アプリを作ろう。スポットの写真は…ネットから持ってくればいいか」
──もし昔の自分がそう考えていたら、全力で止めに行きます。
こんにちは、しらかわるーむの白川秋です。熊本の乗換案内+観光アプリ「くまモビ」を個人開発していて、先日ついにGoogle Playの製品版公開に向けた最終審査に申請を出しました。リリースまであと一歩のところです。
今日はその裏側で、いちばん地味で、いちばん時間がかかって、いちばん胃が痛かった話をします。観光スポットの写真、約170か所ぶんの「使用許諾」を、ぜんぶ自分で取りに行った話です。
メールを送っても返事が来ない。「個人に許可した前例がない」と言われる。せっかく組み込んだ写真を、許可が取れずに全部消す。そんなことの繰り返しでした。それでも最後には、掲載している写真はすべて「許可済み」という状態にたどり着きました。まだ許可をいただけておらず写真を付けられていないスポットも残っていますが、それでも全スポットの8〜9割にサムネイル写真を反映できています。
個人開発で写真を扱う人の参考になればうれしいです。
この記事のポイント
- アプリの写真は「拾ってきて使う」は絶対NG。全部に許諾が必要です
- 公式ギャラリー・SNSの撮影者さん・企業への依頼書、ルートは3つありました
- 許可が出るまでは「載せない勇気」。写真を付けられたのは全体の8〜9割です
そもそも、なぜ写真に許諾が必要なのか
写真には撮影した人の著作権があります。ネットに公開されている写真でも、「見られる」ことと「使っていい」ことはまったくの別物。アプリに載せるなら、権利者の許可か、利用を認めるライセンスが必要です。
くまモビは観光アプリなので、写真の力がそのまま魅力になります。文字だけのスポット紹介と、写真つきの紹介。タップしたくなるのは圧倒的に後者です。だから「写真なしでいく」という逃げ道は、最初からありませんでした。
第1章:Wikimedia Commonsで始まり、限界にぶつかる
最初の写真集めは、Wikimedia Commons(クリエイティブ・コモンズ)でした。CC BYやCC BY-SAの写真は、クレジット表記などの条件を守れば使えます。熊本城や水前寺成趣園のような有名どころは、これでけっこう揃いました。
でも、すぐに限界が来ます。ローカルな飲食店や小さなスポットの写真は、Commonsにはほぼ無いんです。あか牛丼の行列店、温泉街の豆腐料理屋、猫がのんびり歩く離島の港。くまモビが本当に紹介したい場所ほど、写真がない。
ここから、長い長い「お願い行脚」が始まりました。
第2章:一度組み込んだ写真を、全部消した日
正直に書きます。一度、やらかしかけました。
「許可はこれから取るとして、先に仮組み込みしておこう」と、あるサイトの写真を30件以上、ローカルのテスト用として実装したことがあります。もちろん配信はしない前提で、コードには「★許諾待ち・配信禁止」と書き込んで。
結果、その写真たちは一枚も日の目を見ることなく、全部消しました。方針を見直して、許可が確定したものだけを組み込む形に切り替えたからです。何日もかけた組み込み作業が、まるごと無駄に。
でも今は、あれで良かったと思っています。「許可が下りるだろう」という見込みで作業を進めると、断られたときのダメージが大きすぎる。先に許可、あとで実装。順番はこれしかありません。
第3章:救世主だった「公式ギャラリー」
転機は、熊本県公式観光サイトのフォトギャラリーでした。問い合わせたところ、まとめて25件の写真に使用許可をいただけたんです。クレジット表記の条件(©熊本県観光連盟)を守る形で、押戸石の丘、幣立神宮、球磨川くだりといった主要スポットが一気に写真つきになりました。
自治体系の公式ギャラリーは、観光振興のために写真を提供している場所なので、目的が合致すれば話が早い。個人開発で観光系を作るなら、まず地元の公式ギャラリーに相談するのがおすすめです。
第4章:SNSの撮影者さんに、一件ずつDMを送る日々
それでも埋まらないスポットは、XやThreadsで素敵な写真を投稿している方に、一件ずつお願いしました。
「アプリでこう使いたい」「お名前とアカウント名と投稿へのリンクを、アプリ内のデータ提供元に載せます」「費用は一切かかりません」──これを丁寧に説明して、お返事を待つ。快く許可をくださった方が16名。本当にありがたくて、許可の連絡が来るたびに小さくガッツポーズしていました。
一方で、お返事が来ないままの方もいます。それは「NO」として、その写真は使わない。催促はしません。
細かい配慮も必要でした。ある写真には通行人の顔が写っていたので、モザイク処理を入れてから掲載。人が写り込んだ写真は、撮影者の許可だけでなく、写っている人への配慮も要ります。
第5章:「個人に許可した前例がない」と言われて
いちばん緊張したのは、企業への依頼です。
ある大きな施設に写真の使用をお願いしたところ、返ってきた言葉は「企業ならまだしも、個人で使用許可を求めるというのは前例がない」。……ですよね。分かります。
そこで、正式な依頼書(Word文書)を作って提出しました。アプリの全体像、どの写真をどう使うか、加工はトリミングのみ、費用は一切発生しない(掲載費を後から請求することもない)、許可までは配信しない──全部を1枚の書面にまとめて、アプリ画面のスクリーンショットを別紙に添えて。
結果、使用許可をいただけました。前例がなくても、書面で誠意と具体性を示せば、個人でも道は開ける。この成功体験は大きくて、以降の依頼はすべて同じ様式の依頼書で回しています。「前例がない」と言われたら、「では前例になります」の気持ちで書面を作る。おすすめです。
ちなみに、返事が来ない相手には電話も覚悟して、想定問答まで準備しました(実際、電話連絡をしたことで進展したケースもあります)。メールで待つだけでなく、次の一手を用意しておくのも大事でした。
第6章:くまモンを全部「非表示」にした決断
最後に、いちばん苦しかった決断の話を。
くまモビには、くまモン関連スポットのジャンルがあります。写真の準備も進めていました。でも、くまモンのイラストや写真の利用には熊本県への利用許諾申請が必要で、リリース時点でその回答がまだ届いていませんでした。
施設側から許可をもらえたスポットもありました。それでも、県の許諾が揃っていない以上は出さない。審査に出した現在のバージョンでは、くまモン関連5スポットの写真をすべて非表示(地図表示のみ)にしています。
「写真があったほうが絶対に映えるのに」という気持ちと、「許可が揃っていないものは出さないと決めたはず」という気持ち。天秤は、迷わず後者に傾けました。申請書に「許諾を得てから配信します」と書いた以上、それを守らない選択肢はありません。許諾が整い次第、アップデートで順次追加していきます。
支えてくれたのは、1枚の「台帳」
ここまでの全記録は、photo_licenses.txtという1枚のテキスト台帳に残しています。写真ごとに、提供者、ライセンス、出典URL、確認日、切り出しサイズ、備考。掲載する写真はすべてこの台帳と1対1で照合できるようにしています。
許諾は「取ったら終わり」ではなく、「いつ・誰から・どんな条件で」を記録してこそ意味があります。あとから条件を確認したいとき、権利者から問い合わせが来たとき、この台帳が守ってくれる。個人開発こそ、記録をきちんと残すべきだと痛感しました。
アプリ掲載予定URL
まとめ:面倒くさいは、信頼の裏返し
写真の許諾は、正直、面倒です。開発そのものより時間がかかった週もありました。でも、アプリを開いて、写真の下に並ぶ「©」やお名前を見るたびに思います。この1枚1枚の後ろに、快く「いいですよ」と言ってくださった人がいる。掲載している写真は、一枚残らずそうした許可の上に載っています。
写真を付けられたスポットは、まだ全体の8〜9割。残りは許可をいただけたら順次追加していきます。「埋まっていない」のはもどかしいですが、拾ってきた写真で10割埋めたアプリと、許可のある写真だけで8〜9割のアプリなら、迷わず後者を選びます。見た目の完成度より、中身の重みです。面倒くさいことを積み重ねた分だけ、堂々と人に勧められるアプリになる。それがこの数か月の、いちばんの学びでした。
くまモビは現在、Google Playの最終審査中です。審査を通過して公開されたら、あらためてこのブログでお知らせします。写真のクレジットはアプリの設定画面「データ提供元」からご覧いただける予定です。ご協力くださったすべての皆さま、本当にありがとうございました。
それでは、また次の記事で!

